海外へ出る日本人は減っているのかということと、不安を売るメディアについて

よく「留学する日本人が減っている」「若者の内向き傾向や海外離れが進んでいる」と言われます。

でも、私の知り合いには留学経験者が何人もいるし、20代から30代の若年層の間で外国の文化や海外移住への関心がどんどん高まっているのも感じます。そのため、「若者の海外離れ」という言説はどうも腑に落ちませんでした。

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データを見てみよう!

多くの「日本人留学生減少説」で根拠とされてきたデータは、OECDやユネスコ統計局の統計をもとに文部省がまとめた、日本人留学者数の推移に関するデータのようです。下記の図表中の、黒い折れ線グラフがそれです。

出典:日本人の海外留学状況

この調査結果をもとに、「日本人留学者数は、2004年をピークに30%も減少してきている」といったことが取り沙汰されたようです。

今回はまず、2月8日に文部科学省から「日本から海外への留学生数の推移」のデータ発表があったことを受けて、近年、「企業は、ガラパゴス」「学生は、内向き」だと言われている“論拠”について考えてみたい。まず…

しかし、先の図表には、近年急速に上昇している赤い折れ線グラフもあることに気付かれたかと思います。この数値は何でしょうか?

これは、JASSO(日本学生支援機構)が実施した「各大学等が把握している日本人留学者数」のデータです。OECDやユネスコによる統計のデータと、かなり差があるように見えます。なぜなのでしょう?

まず、OECD等のデータについて一つ説明します。OECD等のデータである黒い折れ線グラフは、2012年と2013年がつながれていません。


これは、2012年までと2013年で、データの取り方が違うからです。2012年までは調査対象が「外国人学生数」、2013年からは「外国人留学生数」になったとのこと。2つの違いは、文科省の報告ページによると、次のような感じのようです。

2012年までの調査対象「外国人学生数」:
受入れ国の国籍を持たない学生の数。

2013年からの調査対象「外国人留学生数」:
勉学を目的として外国に移り住んだ学生の数。もともと当該国に居住していて大学に進学した学生等は含まない。

 → つまり、「日本国籍を持っているが、小さい頃からドイツに住んでいる」という人がドイツの大学に進学した場合、2012年までの調査では「留学生」にカウントされていましたが、2013年以降の調査ではカウントしないことになったのです。

「日本人の海外留学者数」及び「外国人留学生在籍状況調査」等について:文部科学省

2012年までの黒い折れ線グラフと、2013年の55,350人というデータの点は、このように調査対象が異なるため、全く別のグラフと思った方がよさそうです。

JASSOのデータにはおそらく「もともと外国に住んでいて現地の大学に進学した日本国籍所有者」は含まれていないでしょうから、こちらも2012年以前のOECDのデータと比較するのはやめた方がよさそうです。そこで、2013年のデータとの差を考えてみます。

その場合も調査対象が重要で、JASSOのデータには「交換留学等の短期留学を含む」と前述の文科省の報告ページに書かれています。一方、OECD等のデータについては、原則として交換留学等の短期留学は含まず、学位取得のための留学のみが対象ということです。つまり「恐竜の研究がしたいからカナダに行って考古学修士をとる」とか、「フランスへ行ってフランス文学の博士号をとる」といった人たちです。

2つの数値に差があるのは、調査対象を学位取得のための留学者に限るか、短期留学者も含めるかという違いがあるからでした。

つまりどういうこと?

?「日本人の留学者は2004年をピークにどんどん減っている!嘆かわしい!」という解釈は、「もともと外国に住んでいた日本人の大学進学者を留学生に含めて、短期留学者を留学生に含めない」というデータの取り方をした統計に基づくものでした。

短期留学者も含めると、近年、日本人留学者数はむしろ急速に増加していると言えます。文科省によると「学位取得等を目的としない短期の留学が先進国等において増加傾向」とのことですが、6か月以上の滞在をする人についても、緩やかな増加傾向が見て取れます。

<まとめ>

  • 日本人留学者数は増加してきている
  • 特に短期の留学をする人が大幅に増加
  • 6か月以上の留学をする人も緩やかな増加傾向

(補足)
ただし、こちらの太田浩教授の論文を読むと、「日本は韓国の約2倍、台湾の約5倍も人口が多いのに、留学者数は両国よりも少ない」といったことを知ることができ、また違った視点の問題意識を持つことができます。興味がある方はぜひ読んでみてください。

考えたこと

やっぱり自分で一次データにあたることがとても大事だと実感しました。2012年までのデータの取り方はとても妥当とは思えないのに、いまだにこのデータを根拠とした「若者の内向き傾向」論を目にします。

「近年、○○という傾向が進んでいて嘆かわしい」といった言説はどれも、真偽を慎重に判断した方がよさそうです。代表的なのは「凶悪な少年犯罪が増えている」というものでしょう。

地域住民などが学校の運営に参画する「コミュニティ・スクール」(学校運営協議会制度、CS)の在り方について、中央教育審議会の作業部会が審議のまとめを行いました。

「犯罪がどんどん減っています。安心ですね」とか「留学する若者が増えています。頼もしいですね」というニュースはなく、「こんなことになっています。大変ですよ!」と不安を煽るニュースばかりなのは、その方が人々の注意を引けるからですね。メディアは不安を売っているのだなあと思います。

「そういうニュースや番組を見て視聴率を上げるのはよくないと市民も意識すべき。メディアの腐敗は視聴者が作っている」という意見もあります。私も一時期はそうかもと思っていました。

でも、不安や危険をとらえると注目してしまうのは生物としての本能です。それを利用して、事実を脚色したり捏造したりしているメディアの、国民のリテラシー低下に対する責任はとても大きいと思います。

話がずれるようですが、私は長時間労働も国民のリテラシー低下に拍車をかけている要因だと思っています。仕事に追われて毎日遅く帰宅していたら、ニュースの真偽や気になることについてデータをつぶさに調べている暇なんてありません。自分で調べる時間もエネルギーもないから、情報の選択や解釈をメディアに委ねるしかなくなっているのだと感じます。

幸運なことに私は今とても時間があるので、時間がない人のために色々なことを調べたり考えたりして発信することは、一つの使命のように感じています。

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