トキワ荘プロジェクト編著『マンガで食えない人の壁 -プロがプロたる所以編-』を読みました。
「ドラゴン桜」や「インベスターZ」を世に送り出した編集者・佐渡島庸平氏や、大ヒット作「のだめカンタービレ」の作者・二ノ宮知子先生など、「マンガのプロ」たちがプロ論について語った豪華な内容です。
「自分のやりたいことで大成し、稼いで、生きていく」ということを目指すうえで重要なことがたくさん書かれており、漫画家志望者に限らず目標に向かって頑張る全ての人にとって非常に有益な本だと思いました。
印象に残った点をまとめてみます。
「伸びる人は聞く耳を持っている」
漫画家・新條まゆ先生の言葉です。
新條先生は、「まずは人の話を聞ける自分になること」とし、「聞く耳を持つこと」の大切さを語っています。
同時に「一番大事なのはバランス感覚」とも言っており、自身が新人のときは、「誰の話を聞くか」ということにシビアになるようにしていたのだそうです。
「この人は売れるものを作っているっていう人の意見は、すごく素直に聞いていました。」
「逆に、この人なんの実績も無いじゃんと思う人の意見は、ほとんど聞いていなかったんです。そういうシビアなことはやっていったほうがいいと思います。」
まずは「聞く耳を持つ」、すなわちアドバイスを素直に受け入れる姿勢を身につけ、その上で聞いた意見を取捨選択することが重要ということなんだなと思いました。
また、新條先生は「伸びる」うえでは「人付き合い」も重要だと言っています。
「描くのと同じくらい人との関わり合いを大事にしてください。フリーランス云々で言うのであれば、大半の仕事は人からもらうものです。」
「中堅以上になってくると、そういった新人と同じルート(注:応募や持ち込みといった方法)で仕事を貰うことは難しくなり、人付き合いを大切にしているかどうかが漫画家として生き残れるかどうかを大きく左右することになります。」
これには身につまされるところがありました。
なぜなら私はこれまで決して人付き合いを大事にしてきた方ではなかったからです。むしろ進学や就職など、人生の区切りのたびに、意識的にそれまでの人間関係を絶ってきました。
中には素晴らしい人もいたのに、その人たちとの縁も断ってしまいました。すごくもったいないことをしたなあと思っています。
「ハングリー精神と作品の質を上げるために、贅沢をしろ」
こちらも新條まゆ先生の言葉。
新條先生は、「東京に出てくることには意味がある」と言います。理由は「売れてる人や、成功してる人、お金持ちの人を間近で見るっていう経験が大事だから」。
これもここ数年の私には身につまされるところがありました。最近の私は会社員の身分を捨てて半年以上が経過し、収入はかなり不安定で、さらに先月からは同棲中の彼氏も会社員を辞めて二人揃って不安定…と、とてもお金に余裕があるとは言えない状態です。
なので必然的にお金を極力使わない生活をするようになります。しかしそれが度を超すと、不思議なことに、お金を使わないせいでお金が入ってこない…という状態になるのです。
「貧すれば鈍する」とは本当によく言ったもので、お金が入ってくるようにするためには、ある程度お金を使う必要があるのだと身をもって感じました。
「日本一面白い作品を描こうと思うな」
ドラマ化・映画化もされるヒット作となった「LIAR GAME(ライアー・ゲーム)」の作者、甲斐谷忍さんの言葉です。
「描けないと言っている新人は、おそらく、日本にあるマンガの中で、一番面白い作品を描こうとして、それで悩んでいるのではないかと。あまりにも作品の理想が高すぎて、今のアイデアだと少し足りてないから、それを思いつくまでずーっと考えてる、みたいな。」
これは色々なことに当てはまりそう。
以前の記事で英語学習についてこのことを書きましたが、「理想が高すぎてアウトプットが抑制される」というのは、多くの人がはまりやすい失敗パターンなのだろうと思います。
「次に何が来るか」ではなく「自分に今何がキてるのか」
漫画家・上條淳士氏と「のだめカンタービレ」作者の二ノ宮知子さんの対談で出た言葉です。
上條「アシスタントの子たちは「何を描いたら売れますか?」とか「今、キてるジャンルってなんですか?」って僕に聞きたいんですよね。でもそうじゃなくて、どんなに取材しても、結局は自分の中にあるものしか描けないんです。」
二ノ宮先生も「”次に何が来るか”じゃなくて”自分に今、何がキてるか”が大事」と返しています。
「自分の中にあるものしか描けない」というのはとても深い言葉だと思いました。
創作でも新しいビジネスでも、きっと自分の外に何かを探しているばかりではうまくいかない。
「世間で今、これがキてるから」とか「次にこれが来ると言われているから」という思いでスタートして成功した人であっても、それは始める前からその人の中でちゃんとそれが「キていた」のだと思います。
「自分自身が夢中になっているわけではないけれど、注目されているようだから…」とか、「興味はあまりないけど、儲かるみたいだから」みたいな理由で、自分の外にしかなかったネタで何か始めても、成功するのは難しいように思います。
まとめ:すべての自分を奮い立たせたい人に!
本書の主題は『マンガで食えない人の壁』ですが、下記の上條先生の章末のアドバイスが力強く突き刺さります。
壁のなかでいちばん楽な壁は、デビューするという壁です。その壁はとっとと越えてください。
この言葉を踏まえると、例えば留学するという夢がある人にとって、留学という壮大なプロジェクトの中で一番楽な壁は「渡航する」ということだと気付かされます。
それはゴールじゃなくて、もっと大変な壁はその先に無数にある。「渡航」は留学というプロジェクトの中で一番楽な壁でありスタート地点。
自分のビジネスをやることが夢である人にとっては、一番楽な壁は「起業」することになるのでしょう。まだまだ、そこから先がある。
自分がいま苦しんでいることは、自分の夢の道のりの中で、何番目の壁だろうか?
そう自問することの大切さを教えてくれるとても深い本でした。
余談ですが、漫画界の「裏事情」が垣間見えるのも本書の面白いところ。現在『週刊モーニング』で大人気連載中の「インベスターZ」が当初は『少年ジャンプ』に持ち込まれたという話など、とても興味深く読みました。
自分の得意なことで食べていくという茨の道に挑戦しようとする人、夢に向かう自分を成功者たちの熱い言葉で奮い立たせたい人、漫画界のリアルな事情をのぞいてみたい人などにとてもおすすめの一冊です。